1.アントシアニンはなぜ連続的に色が変わるのか?1-7) アントシアニンが他の植物色素と際立って異なるのは、連続的に幅広い色を示すことである。カロチノイド、クロロフィルなどと比べ、橙色から赤、紫、青色までの多彩な色を持ち、波長にして450 nmから650 nm 近くまでの可視光を吸収する。これは、アントシアニンの発色団である母核アントシアニ ジンの構造がpHに応じて変化するためである。 ←クリックで拡大 図1 アントシアニンのpH変化による構造変化とその色. 試験管は、デルフィニジン系色素を様々なpHの緩衝液に溶かした直後である。 強酸性ではプロトン化されたフラビリウムイオン型で赤色、中性域 ではフラビリウムイオンから脱プロトン化した中性分子のアン ヒドロ塩基型で紫色を示す。アルカリ性になるとさらにもう一分子のプロトンが脱離したアンヒドロ塩基アニオン型となり青色を示す。この反応は全て平衡であり、さらに、フラビリウムイオン型からは容易に水和反応が起こり、退色する。そのため、 我々が目にしている花色は、実は、これらの分子種の平衡混合物である。 この平衡は、溶液のpHのみならず色素の構造や共存物質、 金属イオン、そしてそれらの濃度により大きく影響される。さらに、アントシアニジン母核と他の芳香環との疎水相互作用も重要である。アントシアニジン母核同士、アントシアニジン母核とフラボン分子の芳香環、あるいは多アシル化アントシアニ ンの分子内の芳香族酸がファンデアワールス半径に近い距離で分子会合することにより、水分子の攻撃を妨げて退色反応が抑えられる。後藤らにより最初に提唱されたこの芳香環同士の面対面の分子会合説は2)、様々な実験事実の裏付けによ り、現在、アントシアニンの発色と安定化機構の最重要なものとして広く受入れられている。 アントシアニンが花びらの中で青くなるためには、もうひと工夫が必要である。即ち、細胞液はふつう弱酸性(pH 4〜6 程度)で、このpHでアンヒドロ塩基アニオン型が安定に存在する場合に限って、花は青色となる。青色発色の化学機構としては、これまでに3種類がわかっている。 ←クリックで拡大 図2 青色発色の3つの機構. 最もよく明ら かになっているのは、グループ1の金属錯体型アントシアニン (メタロアントシアニン)である4,9)。厳密に構造と 比率の決まったアントシアニン、フラボンおよび金属イオン (6 : 6 : 2)が、混合されるだけでひとりでに自己組織化して、互いに相手を認識したうえできっちりとおさまった超分子 を形成する。アントシアニンは金属錯体の形成によりアンヒドロ塩基アニオン型に固定され、その母核は自己会合とコピグメ ンテーションで水和から守られる。2番目は、空色西洋アサガオやリンドウ、ロベリア、デルフィニウムなどの花における、 多アシル化アントシアニンの青色発色である。分子内に2個以上の芳香族有機酸を持つ多アシル化アントシアニンには青から青紫色の花が多く、薄い水溶液中でも分子内会合により安定化される2,7)。このような分子内会合した色素が、細胞のアルカリ化や金属錯体形成などによってアニオン型を取り青くなる。3つめはアジサイである。アジサイの青色は、溶液中でしか存在し得ない弱い分子間相互作用でできたアルミニウム錯体によると考えている。pHや共存物質の僅かな構造の違いで影響を受け、ファジーに色が変わるのが特徴である。 参考文献 ← ・ → |
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