分子科学討論会2016で発表の座長を頼まれたが、そのうち3件が京大工学研究科の立花研究室によるQEDについてだった。そこで論文[1,2]を予習し発表を聞いたが、疑問をメモしておく。論文[1,2]と今回の発表の要点は、1個の生成演算子をalpha振動子を使って多数の演算子の和で書く事と、
H
QED
(t)
が時間に依存し得るので、量子力学の観測問題の非再現性がこれに由来する、という主張である。観測問題という量子力学の気持ち悪い部分が、解明されるなら素晴らしい。
まず
H
QED
(t)
は時間に依存するかを考えたい。[1]では時間に依存しないと式(2.35)、p.1953, p.1957に書いてあり、他方[2]には一般に依存し得ると書いてある。手元にあるランダウ-リフシッツの相対論的量子力学に従って、簡単のため真空中の電磁場を例にとり、
H
QED
(t)
は時間に依存するか調べよう。
系は有限だが大きな箱に入っている。電磁場のスカラーポテンシャルは0なので、ベクトルポテンシャルAを進行波
exp(ikr)
に分解し、その展開係数
a
k
から変数
Q
k
,
P
k
を定義する。Aは式(2.7)と書ける。
A(rt)=
4π
−
−
√
∑
k
Q
k
(t)cos(kr)–
P
k
(t)/ωsin(kr)
Aの空間座標は進行波由来のsin, cosへ、時間座標は
Q
k
,
P
k
に移る。この
Q
k
,
P
k
を正準変数と見なし、交換関係
[
P
k
,
Q
k
]=−i
を要求する。この要求の正しさは、理論に矛盾が生じないか調べ、最終的には実験と整合するかで判断するのだろう。理論に含まれる無限大を避ける手順が必要だが、この量子化は実験と整合するので現在正しいと考えて良い。
さて古典的なハミルトニアンは
H=
1
2
∑
k
P
2
k
+
ω
2
Q
2
k
と書ける。これは時間tを陽に含まず、
Q
k
(t)
,
P
k
(t)
を通じて一般に時間に依存する。今の問題設定だと定数になり、エネルギー保存則を意味する。
Q
k
,
P
k
を演算子と見なすと、量子論のハミルトニアンになり、時間tを陽に含まないため、系のエネルギーは保存する。
- J. Math. Chem., 53, 1943, 2015
- J. Math. Chem., 54, 661, 2016