3.空色西洋アサガオの花色変異の仕組みとは? アサガオは今でこそ赤、白、紫、覆輪、斑入りと様々な花が 知られるが、原種の花色は青である。この青色のアサガオのツボミを割ってみると、花弁は赤紫色をしている。 ←クリックで拡大 図3 空色西洋アサガオの開花に伴う花色の変化. 構造式は花弁色素( HBA )のアンヒドロ塩基アニオン型構造。右下は、そのときの分子内会合模式図で、母核はコーヒ 酸の会合によって水和反応から保護されている。 これはどうしてだろうか。空色西洋アサガオ (Ipomoea tricolor cv. Heavenly blue) の花弁色素、ヘブンリーブルーアントシアニン(HBA) の構造は、我々によって既に15年前に明らかになっている8)。分子内に3個の コーヒー酸残基を持つ多アシル化アントシアニンで、薄めても 水和退色しない。これらのコーヒー酸残基がペオニジン母核へ分子内会合して安定化される。 空色の開いた花弁色素も、赤紫色のツボミ花弁色素も分析すると全く同じで、 HBA だけしか検出されない。このことから、花色の変化はアサガオ 花弁の細胞液のpHの変化によると推定されてきた。空色アサガオの花びらを薄い切片にして顕微鏡でみると、表皮細胞だけが空色で、中間層は無色である。細胞液のpHを測定しようと 花びらを潰してみると、空色だった花弁がみるみる紫色になり、搾汁のpH は7前後を示す。これは、青色の表層細胞と無色の内側の細胞とが混ざった全体の細胞液の平均値と考えられる。 では、一個の液胞pHを直接測定するにはどうすればよいのか? 我々は、細胞に直接pH電極を刺し込んで測定する細胞内微小電極法を行なった。アサガオの花びらの細胞は約 40 μm の大きさである。先端の穴が 1μm 以下のガラスキャピラリー 電極を作り、先端にニトロセルロース混ぜたプロトンイオノフォアを詰めた。ニトロセルロースを添加するのは、植物特有の堅い細胞壁を打ち破り、 6 〜 10気圧もの細胞内の膨圧に耐えるためである。植物細胞は、この二つの点で動物細胞とは大き く違う。これをマイクロマニュピュレーター(微動装置)に取 り付けて顕微鏡下で花びら表層の青色細胞に刺し、液胞 pH 測定に初めて成功した。 ←クリックで拡大 図4 細胞内微小電極法による液胞pHの測定. 顕微鏡で見ながら電極を挿入していくと、最初に向軸側色素 細胞のpHが、次に柔細胞、最後に再び表皮色素細胞のpHと 連続的に計ることができた。 赤紫色のつぼみの液胞pHは 6.6で開いて空色になると pH は約 7.7 と高くなることがわかった。こうして、アサガオの花色は液胞 pH の変化によ り移り変わることが実証できた4,6,10)。この細胞内電極法は、一細胞で精密にpHを測定でき、アントシアニンの 花色発現機構解明に、極めて強力な武器となる。 参考文献 ← ・ → |
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