量子力学の授業で習うように、基底(つまり 最安定 )状態の波動関数は、エネルギー期待値を最小化して得られる。そして エネルギー期待値は、たった4変数の2次密度行列から計算できる。だから基底状態の波動関数は、実は求めなくても良いのではないか、という研究が1960年代からされてきた。
しかしここには落とし穴がある。電子の波動関数には、2個の粒子の交換で符号が変わる、反対称的なものだけ許される。 そこで許される密度行列もある条件を満たすはずである。
密度行列は波動関数Ψの変数を次式のように幾つか積分するが、 なくなった変数間の反対称性をどう課すのか? 数学者の長年の努力にもかかわらず、この表現性問題は未解決である。 そのため波動関数の代わりに密度行列を使うことは出来なかった。
前世紀末(まだ青年だった)私と、私の先生(中辻博教授)は、物理学で使われている多体摂動論を使って 近似的な表現性条件を課す事により、始めて波動関数を使わずに密度行列を求めた。 密度行列は多粒子グリーン関数の特殊な場合であり、ファインマン図形を使い解析できる。この方法により表現性問題を完全に解決しなくても、密度行列に基づく量子力学が作れることが分かった。 またこの理論を有限温度に一般化できた。
またMazziotti博士や中田真秀博士は、 今世紀初頭までに知られていた表現性条件を課して、2次密度行列を変数として、分子などの変分計算を行った。その結果は他の多体理論と同程度に良く、工夫次第で使えるかも、という希望が感じられた。その後も彼らを含む熱心な信奉者により、研究が続けられている。