各種の分子や固体の違いは、結局どの原子核をどこに置くかの差しかない。 そこで、最安定状態の波動関数の代わりに電子密度を使っても、情報は全く失われない。1変数関数である電子密度は、多変数の関数の波動関数より単純である。この電子密度を直接求めるのが密度汎関数理論である。電子密度は各粒子が独立に共通の有効場中を運動する簡単な問題を解いて得られる。この理論により、金属や半導体の性質が計算機シミュレーションで予想できるようになった。現在では計算機シミュレーションの専用プログラムが販売され、大学や企業で使われている。また密度汎関数理論の開発者 Kohn はノーベル化学賞を受賞した。
密度汎関数理論の弱点
この密度汎関数理論では、電子密度を求めるために、有効場が必要である。波動関数の複雑さを、有効場の複雑さに置き換えているが、その正確な形はまだ不明である。そこで一様な電子ガスのエネルギーを使うが、分子や固体の電子密度は一様とは程遠い。そのため、分子間に働く弱い力が表現できない。また最安定以外の状態も扱えない。
密度行列汎関数理論
電子間にはクーロン反発力しか働かないため、基底状態の1次密度行列を使っても、情報は全く失われない。 従って最安定状態のエネルギーEは、その状態の1次密度行列の汎関数e[γ]である。密度行列汎関数法で必要になる有効場は、エネルギー汎関数のγに関する汎関数微分である。 この密度行列汎関数法では、密度汎関数法より、必要な有効場は単純であり、密度汎関数法の弱点を克服できる。
私達は密度行列から核配置を決める理論を発見し、これに基づいてエネルギー汎関数を構築した。この結果を幾つかの原子、分子で検証した。原子や分子の厳密な1次密度行列γを求め、近似エネルギーと真の値を比較したところ、相関エネルギーの98%近くが得られ、この方法が有効だと分かった。