我々も含めて地球上にある全ての物が、電子という負の電気を帯びた軽い粒子と、原子核という正の電気を帯びた重い粒子からできています。電子は一種類、原子核は百種類程度しか無いのに、それらが集まると硬かったり、甘かったりと色々な性質を持つ物ができます。それはなぜか、ミクロな立場から物の性質を理解するのが、理論化学や物性物理学の仕事です。
これら物の性質はそれを作っている原子核と電子の挙動が分かれば理解でき、多くの場合原子核より電子が主役です。つまり物の性質を理解する事は、その物に含まれる電子のあり方を理解する事です。同じ種類の電気は避けあい、違う種類の電気は引き合うという具合に、これらの構成粒子の従う法則は既に分かっていますが、沢山の粒子がお互いに影響し合っているので(多体問題)、集まった時に何が起こるかよく分かっていませんでした。しかし優れた科学者と計算機の発達のおかげで、その様子が粒子の従う法則(量子力学)だけから予想できるようになってきました。
この様な学問はどんな役に立つのでしょうか。一つには物の仕組みを唯一つの法則から理解する事で、私達の知的好奇心を満たしてくれます。二つ目には、これらの理論は私達が直接調べられない物の情報を教えてくれます。例えば木星や土星の中心では、三百万気圧の高圧力のせいで、水素ガスが金属になっていますが、これはどんな物か、また地球の地下三百から二千九百キロメートルにあるマントルが何から出来ているか、遠い星から来る光だけから、その星にどんな物があるかは理論が教えてくれます。しかしこれらと同じくらい重要なのは、この様な学問が私達の直面している、環境や科学技術の問題の解決に必要だろう事です。