理論化学の役目 2

環境問題

今私達は地球温暖化、環境ホルモン等の有害物質、ごみ問題等多くの環境問題に直面しています。これは人々が利便さのみを追求し、科学技術を盲目的に利用した結果生じたものです。化学は新技術で、人類が直面している地球規模の問題を、解決できると期待されています。

二酸化炭素問題は、石油、石炭等の化石燃料を使う結果生じるエネルギー問題であり、太陽電池や人工光合成等の太陽エネルギーの有効利用や、新型電池による省エネルギー等が解決策として期待できます。これらは光、電気、化学エネルギーの相互変換を如何に効率よく行うかが最重要です。これらの過程では電子が主役となり進むため、その動きを正確に理解すれば、より良い変換法が分かるはずです。理論と計算機の発達により、この相互変換の過程もかなり良く分かってきました。

太陽電池はけい素からできていて、光を吸収して電気に変えます。けい素中の電子が光を吸収すると、そのエネルギーで今迄いた安定な場所から、不安定な場所に移ります。元の位置は空席になり、この空席と移った電子はそれぞれ正、負極に移動して電気になります。この全く逆を行うのが、携帯機器によく内蔵されている発光ダイオードです。これらが赤や緑等の決まった色で光るのも理由があります(固体物理)。最近良く見る抗菌タイルは、太陽電池と良く似た原理で汚れを分解します。タイルの表面に塗られた二酸化チタンが紫外線を吸収して、そのエネルギーをもらった電子と空孔は表面に移動して、酸素や水にエネルギーを渡し、この酸素や水が汚れを分解します。二酸化チタンは有害物質や重油も分解できます。

代替エネルギーが開発されるまで、石油は最重要のエネルギー源で、また重要な原料ですが、その残存量が心配されています。水分子の数倍の細孔が沢山空いたゼオライトという鉱物はアルコールをガソリンに変える(触媒)作用があります。そのアルコールを石炭、天然ガス、植物や、炭酸ガスと廃熱から作る研究、廃プラスチックから油を作る研究もされています。

この様に原料を望みの物に作り替えるには、原料の原子の位置を並べ直せば良いのですが、触媒はこれを行ってくれます。望みの物が作れるか否かは、触媒の良い悪いにかかっています。体の中の物の変換は、蛋白質でできた触媒(酵素)が行っています。触媒は微妙なもので、例えば金は不活性で触媒として働かないが、白金上に原子一層だけつけると働いたり、同じ白金でも結晶の切り方が違えば、働いたり働かなかったりします。なぜこんな差が起きるかは、触媒が原料の原子を組み替える時の、電子の働き方に還元でき、理論化学(量子化学)から分かります。またより良い触媒の設計もできます。

現在世界中で多くの人が餓死していますが、化学肥料や農薬は食糧問題を解決するための必要悪でしょう。蛋白質を作るには、空気中の窒素ガスを生物が使える肥料に変える必要があります。これは豆科植物と化学肥料で行われていますが、植物だけでは必要量の窒素を賄えません。出来る限り無害の肥料、農薬が必要です。理論化学はここでも重要な役割を担っています。