この方法で、独立電子(つまり軌道) 模型の範囲で、共鳴状態を求めることができた。しかし、励起状態は占有軌道から作ったSlater行列式の線形結合で表され、 軌道模型は荒い近似しか与えない。そこで、共鳴励起状態を簡潔に記述するため、我々は多体摂動論のBethe-Salpeter方程式を解くことにした。これは軌道模型に対応する無摂動1粒子Green関数から出発し、 摂動効果を表すファインマン図形和を求めて、分極伝播関数を与える方程式である。 我々の問題では、電子相関と境界条件効果という二重摂動が加わる事になる。これに問題を解き易くする色々な工夫をした。例えば、無摂動Green関数を密度汎関数理論から求めた軌道で作り、Bethe-Salpeter方程式の固有分極部分を交換相関核で代用し、 境界条件効果を表す主要な自己エネルギーを残すなど。その結果、時間依存密度汎関数理論の状態に対する補正として、 共鳴状態を求めることが出来た。
次にこの理論を、色素増感型太陽電池の電子移動過程に用いた。ペロブスカイト型太陽電池が出現する数年前までは、安価な太陽電池候補として色素増感型が熱心に研究され、1万件近くの実験結果が蓄積されていたので、理論検証に適していたためである。単体色素の理論計算の研究も500件以上あり、電子移動をシミュレートする新しい方法も数種類報告されていた。我々は(長い話を短くすると)過去の研究を参考にしつつ、anatase(101)面という酸化チタン表面に吸着した、有機ルテニウム(Ru)色素の良いモデルを探った。 そして高性能色素の共鳴励起状態の性質を探った。
左図はblack dyeと呼ばれる色素が吸着した際の、吸光度と各励起状態 (単位femto秒)の寿命を示すが、これらは実験値と整合し、固体表面上の共鳴状態が上手にシミュレートできる事が分かった。また、色々な構造のRu色素で、構造と性質の関係を調べた。今回は実験が多い色素増感型太陽電池を例としたが、実験がない例で、理論の真価が発揮できるだろう。