では固体表面に吸着した分子が、光エネルギーを吸収して励起状態になった時、どんな波動関数になるのか。この分子の「イオン化」エネルギーを、固体の伝導体に電子が入りうる最低エネルギーとしよう。 分子がそれ以上のエネルギーを持つなら、ある速さで自動的にイオン化するが、これを超励起状態とみなそう。この場合の境界条件は明らかに発散球面波ではないし、孤立分子でよく使われる複素座標法を用いる根拠もない。
そこで我々は、適切な境界条件を持つ表面Green関数から複素数の光学ポテンシャルを求め、方程式にこの項を加えて境界条件を満たすようにした。これはメゾスコピック系の伝導度を計算するやり方と似ている。量子論が少し分かる皆さんに、我々のやり方を説明しよう。
簡単のため1次元系を考え、図2の左端の分子と右側の固体が障壁ポテンシャルで隔てられているとする。波動関数には左端でゼロ、右側で進行波となる境界条件を課すと、分子に局在化した準安定状態を表す。これを基底関数展開したり、サイト表示をすると、次式のHamiltonian
H
となる。
β
は分子と表面の、
t
は固体原子間の飛び移り積分である。この行列を対角化するとシュレーディンガー方程式を解いたことになるが、有限の大きさの行列を使うと右端でゼロの境界条件を課すことになり、準安定状態が得られない事に注意しよう。表面Green関数を
g(E)=(E−h
)
−1
と定義し、ブロック行列の逆行列を求めると、
g(E)
が2次方程式
g=(E−c−tg
t
T
)
−1
を満たすことが分かる
そして
g(E)
を用いるとシュレーディンガー方程式は見かけ上2×2の方程式となる。赤の項がエネルギーに依存する複素数のポテンシャルで、自己エネルギーとか光学ポテンシャルと呼ばれる。
g(E)
は2次方程式の解なので2個あり、片方が右側で進行波となる解を与える。